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もう少し「契約理論」に踏み込みます……

では、改めて結論から述べますと、ボクが上手にお小遣い交渉を進めるためには、

1.必ず「努力する前」の段階で契約を結ぶ 2.いざとなったら「家出」の選択肢もあることをママに見せる 3.他人よりほんの少しだけ努力し続ける の3つの方法があります。これらについて、順番に解説していきましょう。


1.必ず「努力する前」の段階で契約を結ぶ ボクにとって、「どれだけ努力するか」は自由に決められますが、「どれだけお小遣いをもらうか」は交渉しないと決まらないものだ、ということに注目しましょう。 パターン1:もし先に「努力量」を決定したとします。ボクにとっては、その量の努力で得られる最大限のお金が欲しい、けれどその金額が達成されるかは交渉次第です。契約書を交わしたワケではないので「努力に見合う満額を払う」必要はママにはありません。

 

パターン2:逆に先に交渉をして「お小遣いの額」を決定したとしましょう。ボクはそれを受けて、「その金額で最低限できる努力の量」だけ努力すればいいのです。

 

もしパターン1と2でボクが同じ努力をしたとしても、前者より後者のほうが確実に多くの金額がもらえます。そして、余分な努力が生じません。 このように、不完全な契約では最適水準より低い努力量しか達成されないという問題を、契約理論では「ホールドアップ問題」と呼びます。

※ここでは「ボクを努力させる手段がお小遣い以外にない」ため上の理論が成り立ちますが、現実ではガッツリ怒られた上に交渉力が下がる可能性はあります。

2.いざとなったら「家出」の選択肢もあることをママに見せる ここでは、ママが自由に使えるお金を10000円として、下の図で解説をしていきます。 ボクにとって「最低限譲れない」お小遣い額があるとします。すなわち、決まったお小遣いがその額を下回るなら、交渉から降りるラインです。下の図では「3000円」としています。 3000円以上を達成するためには、ママに対して「3000円を切ったら、ボク家出しちゃうからね!」と示す必要があります。家出して児童相談所から指導が入ればママは大いに困りますよね。 これはママからボクに対しても同じで、これ以上渡すと家計がうまくいかないラインがあります。下の図で「8000円」としているラインですね。 この「最低限譲れないライン」の間にある領域が交渉可能なラインです。初歩の契約理論ではこの領域が両者の「交渉力」=力関係によって分割されるとしています。ママとボクが対等なら、下の図のようにお小遣いは5500円に決まります。 ココからわかることは何か。ボクは3000円分、ママは2000円分を「最低限」と主張しました。ボクのほうが最低ラインを多く主張した分、お小遣いを多くゲットできました。 つまり、ボクは「この額を下回ったら家出するよ!」ラインをなるべく上にできればいいわけです(呆れられない程度に)。

柳川範之「契約と組織の経済学」23pを参考に伊沢作成

 

3.他人よりほんの少しだけ努力し続ける 先程の解説で触れなかった「交渉力」について述べましょう。 もし、2月のテスト順位が1月より良かったとしましょう。これはママに対して努力をアピール出来ています。 しかし3月、ボクが2月と同じ順位だったとしましょう。この時の努力量は周りと同じだとみなされ、努力のアピールにはなりません。 このように、ボクの交渉力は他人と比較した努力量によって決まります。つまり、お小遣いを上げるためには、常に他人よりほんの少しだけ努力することが大事です。一気にたくさん努力する必要はありません。 さらに言えば、「ほんの少しの努力を、ママに過大評価してもらう」ことが大事になります。成績が上がった友達の話はご法度です。


以上、本当にカンタンにではありますが、契約理論を使ってお小遣いをアップさせる秘訣について書いてみました。

ここまでの話は、ママとボクの関係が、お互いの情報を完全には把握しておらず、約束の内容にも穴がある「不完備契約」であることを前提としています。この不完備契約やホールドアップ問題についての研究が、今回のノーベル賞で評価されたのです。 もちろん、今回の記事では大胆かつ不遜にアレンジしていますが、せめて 「あーこんな話が経済学になるのかー」 と認識していただけたなら幸いです。あなたの身近にある「交渉」のほとんどは、経済学で説明が可能なんです。

ニュースに出てくる経済学に、今後もちょっとだけ気を配ってみてくださいね!

注・ここで出てきたお話は、契約理論自体と違って、相手が同じ知識を持っていたらうまくいかないぞ! ママや奥さんに見つからない程度にシェアしてね!


主たる参考文献 ハート、オリバー. 企業 契約 金融構造. 鳥居昭夫. 初版第2刷. 東京. 啓文堂. 2011. 305p 柳川範之. 契約と組織の経済学. 第10刷. 東京. 東洋経済新報社. 2011. 224p

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この記事を書いた人

伊沢拓司

QuizKnockCEO、発起人/東大経済学部卒、大学院中退。「クイズで知った面白い事」「クイズで出会った面白い人」をもっと広げたい! と思いスタートしました。高校生クイズ2連覇という肩書で、有難いことにテレビ等への出演機会を頂いてます。記事は「丁寧でカルトだが親しめる」が目標です。

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