今年の東大入試を見れば、世界の流れが見えてくる

3月は、合格発表のシーズン。受験生の努力の結果が厳しく判定される、運命の季節です。
すべては試験の出来次第。その点から見ると、大学側が欲しがっている生徒像というのが明確になるのもこの時期です。

それは、日本一の難関と言われる東京大学でも同じ。
最近ではいろいろな濃いキャラクターの東大生がテレビを賑わせていますが、東大自体が欲している「東大生像」が分かるのが、この入試問題です。

簡単に言えば「コレが十分に解ける人が東大生」と言えます。
逆に言えば、「コレが解けないやつはいらないよ!」という大学からのメッセージでもあるわけですね。

そう。大学からのメッセージ。もっといえば、大学が学生に対して放つメッセージです。
今この大学に入ってこようとする君たちに、この考え方は身につけておいてほしいぞ」という。

つまり、入試問題を読み解けば、大学が今の学生に求めていることがわかり、ひいては世の中に何を求めているかが分かる、というわけです。

今回は、2017年東大入試の中から世界史の問題を通してそれを推し量りたいと思います。
東大入試の世界史は、これまでも常に「歴史とは、過去について暗記するだけではなく、現代や未来について知るために過去を参考にする学問である」という視点からの出題を続けています。
 
先にズバリ、今年の問題から得られる結論を言ってしまうならば、「今年の東大入試は、トランプ政権と保守化する世界に対しての、東大の提言である!」のです。

すべては僕の「深読み」ですが、単純に東大の問題を読むだけでも面白いですよ。

①保守化するアメリカや欧州がどうなっていくのか、過去から学ぶ

第一問
「帝国」は、こんにちにおいて現代世界を分析する言葉として用いられることがある。「古代帝国」はその原型として着目され、各地に成立した「帝国」の類似点をもとに、古代社会の法則的な発展がしばしば議論されてきた。しかしながら、それぞれの地域社会がたどった歴史的展開はひとつの法則の枠組みに収まらず、「帝国」統治者の呼び名が登場する経緯にも大きな違いがある。
以上のことを踏まえて、前2世紀以後のローマ、及び春秋時代以後の黄河・長江流域について、「古代帝国」が成立するまでのこれら二地域の社会変化を論じなさい。(以下省略)

現代の世界史用語としての「帝国」から、古代帝国に関する知識を問う問題です。

求められているのは古代についての知識ですが、これをなぜいま出題したか?
僕の深読みでは、古代の「帝国の源泉」の視点から現在の「帝国」を見てほしい、という意図があったと考えます。

そもそも帝国って何よ?

そもそも「帝国」ってよく聞きますけど、「どういう意味の言葉なんだろう?」と考えたことはないんじゃないでしょうか。「なんとなく強そう」というイメージで済まされてしまう言葉ですよね。

高校レベルでの「帝国」の定義は、以下の様なものです。

領土拡張を経済発展の主たる手段としている
 =土地が増えると、農業や工業でより多くの生産ができるので儲かる

・異なる民族が領土内に併存しており、民族間の力関係が存在する
 =政治権力を持っている民族が、広い国の中にいる他の民族より上の立場にいる

 

『STAR WARS』の銀河帝国なんてのはいい例ですね。逆に『クレヨンしんちゃん』の映画に出てくるオトナ帝国は日本人だけを支配しているので帝国ではありません。

そもそも「民族」もハッキリ使いたい言葉ですが、ここでは「同じ言語を喋る人の集団」と考えてください。

古代ローマは現在のヨーロッパ各地に住んでいた民族を次々平定していきましたし、古代中国もたくさん王様が居た状態を大きな国が天下統一して古代帝国が生まれました。
この問題では、上記のような「帝国の条件」が初めて成立したという共通点にもとづいて、ローマと中国についてまとめることが要求されています。

……世界史って、ただ用語を覚えるだけの勉強ではないんです。
「民族」や「帝国」など、ともすると読み飛ばしそうな単語の意味をしっかり把握しているか、が東大入試では問われているのです。
「西ローマ帝国」とか「ルイ16世」みたいな単語だけが世界史ではないのです。

 

ではでは、なぜこれが現代と結びつくんでしょうか?
そこを追っていきましょう。

かつての帝国主義とは?

「帝国」に似た言葉に「帝国主義」があります。これは、帝国のような状態を築くことを国の方針とする考え方を指します。

ここでは、今年の入試問題の内容から一歩進んで、20世紀の「帝国主義」の発展過程について、上記の問題も踏まえつつ軽く見ていきましょう。
そして、その視点から現代をのぞくと……?


1850年以降の帝国主義は、「領土侵略」と「侵略した領土で商売をして儲ける」という2つの要素からなります。

イギリスを始めとした国々は、1800年の初め頃から人口増加が進んでいました。国民が食べていくためにはお金を儲けなければなりません。
でも、国内では限界がある。ならば、国を広げてそこでも商売をしよう! というのが、この時期の帝国主義のきっかけです。

各国は武力でアフリカなどに植民地を作り、そこに工業製品などを売りつけて儲けます。現地で低賃金の労働者を使って製品を作ったりもしていました。

1929年の世界恐慌以後、帝国は「ブロック経済」を敷きました。それぞれの領土内部での取引を強固にする一方、他国との取引を強く制限する保守的な政策で自国の利益を守る、という手法です。
……あれ、これどっかできいたような?

現代社会にチラ見えする「帝国主義」

ここ数年の世界を表す言葉が「右傾化」です。簡単に言えば「自分の国の事情が、他国や自国民の自由より優先」という思想です。

ともすると過激な主張を掲げる右派の政党が、世界各国でいま、支持を伸ばしています。そして彼らの主張は、帝国主義に近いところがあります。
国内のアラブ人を冷遇する、日本車を輸入しないなどトランプ大統領の政策にもその傾向は伺えますね。

国内の少数意見(=少数民族)は国のために無視せざるを得ない、他国との貿易などの取引には消極的で自国の利益を優先、などなど。
ここで挙げた要素は、何度も確認しているとおり「帝国主義」の要件ですが、「帝国主義」は帝国を運営する上で採用されている方針です。

つまり、東大はこの問題を通して、「帝国」とはそもそも何たるかを確認させて、現代の各国が「帝国」的傾向へと向かっていくさまに目を向けてほしかったのでは? と僕は思っています。

……ね? 意外とリンクしましたよね?

②トランプ政権の少数者差別にクギ?

第二問
世界史に登場する国や社会のなかで、少数者集団はそれぞれに、多数者の営む主流文化との緊張のうちに独自の発展をとげてきた。各時代・地域における「少数者」に関する以下の3つの設問に答えなさい。(以下省略)

個人的にはコレが一番「露骨」な時事的テーマだったと思います。
なんせ「少数民族」、しかも問題文に「多数者の営む主流文化との緊張」とまで書いてあります。アメリカファーストなトランプ主義との関連が強い!

ここでの答えは全て知識問題ですが、ここでは「少数派と主流文化との緊張が(良し悪し問わず)解決されていく」ことについて、それを実現した様々な方法について書かせている点が共通しています。

明確にどれが良いと書かれているわけではありません。しかし、ここではやはり「ただ少数派だから冷遇するんじゃなくて、上手い共存の仕方が色々あるんじゃないの?」と言いたかったのでは? と思います。

 

ひるがえって今世界を見渡すと、少数派への扱いはより厳しいものになっています。
イスラム国から逃れてきた難民は、ヨーロッパ国内で迫害されたらい回しにされています。アメリカでの外国人排斥運動については述べたとおりです。

このような出来事に対して、東大は受験生に「このような社会問題へのヒントを歴史から探せますか? そのような広い視野を持っていますか?」と問うているのです。

まとめ

いかがでしたか? 今回は今年の東大入試・世界史の問題が、実は現代社会とリンクしているのでは? という視点から問題を紹介していきました。

もちろん、入学試験なので解答に当たっての知識量は絶対に必要です。
しかし、これらの問題は、社会的な背景知識があったほうが解きやすいのは明らかですし、それ以前に東大からのメッセージを受け取れるなんて、ちょっとうれしいですよね。

このような問題を通して東大は、世界情勢に対して加熱する報道を鵜呑みにせず、過去も含めいろいろな選択肢から考え直すクセを受験生に、ひいては世の中に求めているのかもしれません。

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QuizKnock発起人/東大農学部大学院1年・伊沢拓司と申します。「クイズで知った面白い事」「クイズで出会った面白い人」をもっと広げたい! と思いスタートしました。高校生クイズ2連覇という肩書で、有難いことにテレビ等への出演機会を頂いてます。記事は「丁寧でカルトだが親しめる」が目標です。

 

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