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株式会社JERA

こんにちは、セチです。

昨年(2018年)11月、質量の単位「キログラム」の定義変更が決定しました。

といっても、我々の生活に直結するような影響が出るわけではなく、体重計などはこれまで通りに使うことができます。

では、誰が、何のために「キログラム」の定義を変更することになったのでしょうか。

変えた人:単位を統一する国際度量衡委員会

そもそも「キログラムの定義を決めているのは誰か」という問題についてですが、その答えは国際度量衡委員会(CGPM)という国際組織です。

国際度量衡委員会は、世界中の量を表す単位を統一するために「国際単位系(SI)」と呼ばれるものを決めており、以下の7つの単位を「SI基本単位」として定めています。

  • 秒(時間)
  • メートル(長さ)
  • キログラム(質量)
  • アンペア(電流)
  • ケルビン(温度)
  • モル(物質量)
  • カンデラ(光度)

変えた理由:より精密な測定を目指して

そして、昨年(2018年)11月の国際度量衡委員会において、「キログラム」など4つの基本単位の定義が大きく変えられることが決まりました。

この変更理由を一言で言うと、「より精密に計測を行えるようにするため」です。

これまでの基準:国際キログラム原器(分銅)

これまで、キログラムの基準となっていたのは「国際キログラム原器」というものでした。

国際キログラム原器のイメージ / Via en:User:Greg L CC BY-SA 3.0

このキログラム原器は、19世紀末に作られた合金製の分銅です。それ以前の「水1リットルの質量を1キログラムとする」という定義を改めてから、100年以上にわたり厳重に保管されてきました。しかし、年を経るごとにわずかに質量が変化しており、問題となっていました。(一度、42年ぶりにキログラム原器を洗ったら50μg(1kgの1億分の5)(指紋ひとつ分)軽くなってしまったという冗談みたいな話もあります。)

基準の方が変化してしまうようでは、精密な質量測定に支障が出る可能性があります。ということで、以下のような新しい定義がこのたび導入されました。

新しい基準:プランク定数

キログラムは、プランク定数の値を正確に6.62607015×10のマイナス34乗ジュール・秒(J s = kg m^2 s^-1)と定めることによって設定される

ここで登場した「プランク定数」というのは、量子力学などで基本となる物理定数です。人工物のキログラム原器とは異なり、いつだろうがどこだろうが変化しない普遍的な値をとります(ちなみに、基本単位のうち最後まで人工物による定義が残っていたのがキログラムです)。

「ジュール・秒」という組立単位を定義に使用しているため、他の基本単位(メートル、秒)の定義に影響されますが、公式な定義では、まず秒を定義し、次にメートルを定義してから、それを使ってプランク定数に掛け算してキログラムを定義する、と言っているので何の問題もありません。

これによって、なんの心配もなく、1kgが定義されることとなりました。

可能になったのは技術の進歩

ところで、国際キログラム原器は、約100年で50μg(1kgの1億分の5)ほど変化すると言われています。これによって質量の測定、あるいは質量が関係する物理現象の測定が誤差10億分の1より正確に行えないという問題を抱えていました。例えば力、そしてプランク定数の測定もその1つでした。

実験の技術は向上しており、誤差1000億分の1、10兆分の1という精度で測定できるものあります。それなのに、キログラム原器が不安定なために様々なことがらの測定が誤差10億分の1までしか担保されませんでした。

そこで、世界各国の研究機関は最新技術を駆使してプランク定数を測定し、2011年から2017年までに各国で測定された8つの値を元に、上に示した9桁のプランク定数の値を定めました。8つの値の中には日本産業技術総合研究所が測定したデータも含まれています。

このように思い切ってプランク定数の値を定めた事によって、キログラムの定義に不安なところは全くなくなり、他の量を1000億分の1のような高精度で測定できるようになったのです。例えば電子の質量は、今回の変更によって精度が10億分の1から1000億分の1になりました。

おわりに

今回の変更では、キログラムに加えて「アンペア(電流)」「ケルビン(温度)」「モル(物質量)」という計4つの基本単位の定義が改められました。

キログラム以外は既に普遍的な定数による定義だったのですが、いずれも更なる正確さを持つ定義へと変更されています。そして、これらの変更は測定技術の向上に支えられています。

身近なように思える「キログラム」という単位。しかし、その定義には非常に多くの科学者・技術者たちの努力が関わっているのです。

参考

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この記事を書いた人

セチ

都内で医大生をしています。

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