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人生の中で、「あのとき自分は頑張っていた」と確かに自信を持って言える時期が、あなたにはあるだろうか。

生きていれば、「頑張らなくてはいけない」場面はたびたび訪れる。部活の大会や大切な仕事の商談、あるいはもっと些細なタイミングかもしれない。だからきっと、「最も頑張っていた時期」がいつなのか、その答えは人によって様々だろうと思う。それでも、大学進学率が過去最高となった今日この頃に、もしかすると多くの人にとって「受験期」はそうだったのではないのかとも考える。

志望校へ合格するために、花開くかもわからない不安に襲われながら、試験で1点でも良い点を取ろうと机に向かう時間。ときにそれは孤独な時間で、どうしても「頑張り続ける」ことが求められる。少なくとも私にとってはそうで、これまでの生活の中で確かに頑張っていた時期だったと、今になってもそう思えるのだった。

▲くたびれた当時の参考書

ひるがえって、今の私はどうだろうか。大学を卒業し、社会人になった私。ただなんとなく生活している、とは言えないまでも、日々目の前のことをやり過ごすことに必死で、気づけば何年もの時間が過ぎ去っていた。今の自分は、目標に向かって必死に頑張っていた頃の自分に顔向けできるだろうか

そもそも、「頑張り方」も忘れてしまったかもしれない。ここは恥を捨て、過去の自分に学んでみるべきな気がする。

というわけで今回は、受験期の「1番頑張っていた」と思える日のスケジュールを、大人の自分がそっくりそのまま再現して生活をしてみたい。何か得られるものがあるだろうか。

▲今回再現する当時の1日はこちら(仮)

こちらが、受験生当時のある1日のスケジュール。これに沿って今日は生活してみよう。

起床

AM7:30:朝起きて、支度をする

今回のチャレンジは、仕事も何もない休日に実施した。社会人になると、まとまって「頑張る時間」を作るのにも一苦労だと知った。みんなどうしているんだ

朝は、7時半頃に起きた。自分はどちらかと言えば夜型で、朝起きてすぐに参考書を手に取るような生活は当時も到底できなかった。会社員としての今、普段は始業も遅いので、この時点でだいぶやる気を無くしている。これから10時間以上の勉強やら何やらに励むとか、考えたくない。

そんな気持ちを切り替えるためにも、せっかくなので今回は当時食べていた朝ごはんをそっくりそのまま用意してみた。これで少しは気合も入るだろう。

▲何年も、実家での朝はこればかりだった

これは当時のことだが、受験期の中でも、自分が胸を張って頑張っていたと言えるのは、浪人生の夏期講習の期間だったと思う。現役の頃は勉強もそこそこに、夏を過ぎるまで部活と文化祭の準備に明け暮れるような日々だった。そんな状態では当然うまくいく訳もなく、見事に受験は失敗したのだった。

そこから一念発起、とまで言うと大袈裟かもしれないが、志望校も「本当に行きたいと思える場所」に定め、1年間努力をすることになった。目指していたのは美術大学の、中でも特異な試験の学部だったので、入試に対しては専門的な勉強を強いられた。

そのため、新宿にある予備校に日曜だけ通い、あとは自宅で勉強するような「半宅浪」状態で毎日を過ごしていた。とはいえ、日曜の講習に加えて夏期・冬期の集中授業、センター試験など学科対策のための予備校も随時通わせてもらっていたので、親には本当に頭の下がる思いだ。だから今日生活してみるスケジュールは、そんな講習期間の1日にした。

AM8:00:家を出て、ひとまず通っていた予備校へと向かう

通っていた美術予備校の講習中の始業時間が9:30だったので、それに間に合うように家を出ていた。今日も、それに倣って家を出る。

午前

AM9:30:予備校到着。今回は1人で勉強できる環境へ

ひとまずは電車に乗り、通っていた予備校の近くまで行ってみる。今の家は実家よりも予備校に近いので、当時に比べるとすぐ新宿に着く。当時は、京王線の喧騒が嫌だった。電車内ではそれから逃げるようにイヤホンを付け、音楽を聞いていた。習慣として電車内で単語帳を開ける受験生のことは本当に尊敬していた。

▲通っていた美術予備校

つい、予備校の前まで来てしまった。お笑いコンビ・バイきんぐのコントに「自動車教習所を懐かしんでやって来る卒業生」というものがあったことを思い出す。今の私の方がやばいんじゃないのか

当たり前だが今の私は部外者でしかないので、逃げ帰るようにその場から去る。いい大人が栄光のように受験期を思い出すなんて、なんだかとてつもなく恥ずかしいことのように思えてくる。昔の自分に固執するなんて。それでも、今日はやると決めてしまったのだからしょうがない。恥を捨てて、やり通す覚悟をここで決める。

▲こちらは河合塾新宿校。併願の私立対策のため、こちらでも講義を時折受けていた

AM10:00:勉強スタート

当然、予備校の自習室を使えるわけでもないので、適当にそこらのネットカフェに入る。今日の自習室をそこに決める。なんとなく調べていると、「勉強カフェ」や「大人の自習室」のような施設が多くあることを知る。皆、何かしらの形で自分を奮い立たせているらしい。

大人になっても、勉強することは案外いくらでもある。資格の取得やスキルアップのようなわかりやすいことでなくても、漠然と学生時代にやり損ねた範囲の学び直しに、気になる世間のトピックへのキャッチアップ。ただ、それに手を出すことは本当に難しい。学生のうちに勉強しておくことが大事だと、周りの大人は口を酸っぱくして言っていた。その言葉の真意がわかったのは、ここ数年のことだった。学生は学生で、色々やることは多いのだけども。

入ったネカフェのデスクに資格の教科書なり、ノートなりを広げる。自宅ではふいにスマホを開き、TwitterやYouTubeの類に無限に時間が吸われていくが、不思議とこの日は集中できた。予備校では世界史、英語、2次試験の小論文を科目ごとにやっていたので、それのことを思い出していた。

▲暗い部屋に広げる文具。壁越しにでも誰かがいる空間は、自習室を思い出す

お昼

PM12:00:お昼ご飯を食べる

気づけば、お昼の時間になっていた。自宅で休日を過ごすときには午前の数時間なんて、何をするでもなくあっという間に過ぎていくものなので、この2時間くらいを勉強できただけで既に達成感があった。

受験生の生活はどうしても単調になりがちで、そんなとき昼食は本当に憩いの時間だった。お金もない中、トッピングなしで食べる一杯のラーメン。それだけで、不思議と今の自分の生活はきっと正しくて、午後も頑張ろうと思えるのだった。当時よく通っていた予備校近くのラーメン屋にでも行こうかと営業時間を調べると、数年前にとうに閉店していたことを知る。

どこにでもあるチェーン店のはずなのに、あのときのラーメンはもう味わうことができないのかと、なんだか悲しくなる。妥協して、似たような家系ラーメンの店に入る。今日食べたラーメンの味は、またいつか良かったときのものとして、思い出せるだろうか。

▲午後の授業のため、味変のためのにんにくは入れない

そういえば、昼休みに食事を終えて授業の開始を待つ間、予備校のロビーのスペースで、棚に並んだ画集を開いていたことを思い出す。

そんな私を見た講師は、「志賀くんは本当に美術が好きなんだね」と私に声をかけていた。でも、本当にそうだっただろうか。

私はただ負けたくない一心で「自分は受かる資格があるぐらい美術が好きなのだ」と、そう自分に言い聞かせるようにして、休み時間を潰して本を開いていたような気がする。素直に美術が好きだったのかは、今もわからなくなることがある。それでも、そのときに見ていた絵のことは今でも覚えている。

▲アンドリュー・ワイエス『クリスティーナの世界』

アンドリュー・ワイエスという画家についてはっきり知ったのは、このときだった。絵には草原を這い、遠くの家を見つめる女性の姿。抽象画が好きだった自分は特段気にも留めなかったはずなのに、今でもこの絵は折に触れて脳裏に浮かぶ。

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この記事を書いた人

志賀玲太

志賀玲太です。東京藝術大学美術学部芸術学科を卒業。なんだかよくわからない記事を書きます。大概のことは好きです。

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